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乳がんの治療について

更新日:2025/10/10

乳がんの治療について

 乳がんの治療法には、手術療法、薬物療法、放射線療法があります。手術療法には、乳房全切除術、乳房温存療法、乳房再建術があり、最近では、ラジオ波焼灼療法(RFA)を代表とする低侵襲療法も注目されています。
  薬物療法は、内分泌療法、化学療法、分子標的療法、免疫療法、PARP阻害剤があり、数多くの治療薬が存在します。
乳がん 手術

乳がんの薬物療法(詳細)


    乳がんのサブタイプごとの薬物療法は次のとおりです。

A:周術期(手術前後を含めた期間)


⑴ ルミナールタイプ(女性ホルモン依存性)
  基本的に手術を先行し、術後はホルモン療法を5〜10年継続します。進行例や悪性度が高い場合は、抗がん剤治療を併用します。

⑵ HER2タイプ(ルミナールHER2を含む)
  腫瘍径(浸潤径)が1cmを超える場合やリンパ節転移がある場合は、術前薬物療法(抗がん剤+抗HER2抗体)を行い、手術後にがんが完全に消失したかどうかの治療効果で術後のより適切な治療法が決定されます。1cm以下かつリンパ節転移のない早期例では手術が先行されます。

⑶ トリプルネガティブタイプ
  HER2タイプと同様、浸潤径が1㎝を超える場合、術前薬物療法が主流になってきました。特に2cm以上の腫瘍やリンパ節転移ありの場合は、免疫療法を併用することが標準となりつつあります。術前薬物療法の治療効果の結果で術後の治療法が異なります。

薬物療法の注意点


  前述のサブタイプごとの治療指針は、あくまでエビデンスに基づいた大枠です。
  患者さんの意思、価値観、基礎疾患、健康状態、家庭環境などを総合的に評価し、最適な治療方針を検討する必要があります。

乳がん薬物療法の注意点

B:転移・再発期


遠隔転移が認められた場合、原則として根治は難しく、QOL(生活の質)を維持しつつ生存期間を延ばす治療が目標となります。

⑴ ルミナールタイプ
  ホルモン療法が基本ですが、治療歴や再発状況によって期待できる効果が変わります。近年では、CDK4/6阻害剤(アベマシクリブ、ベバシクリブ)により、奏効期間が約2倍に延長しました。肝転移など生命の危険がある場合や、ホルモン療法中に早期再発した場合には抗がん剤を優先することもあります。

⑵HER2タイプ(ルミナールHER2を含む)
  ペルツズマブ+トラスツズマブ+ドセタキセルの併用療法が一次治療の標準です。最近では、トラスツズマブ デルクステカン(T‒DXd)の効果も高く、注目されています。

⑶トリプルネガティブタイプ
  ホルモン療法やHER2治療が適用されないため、抗がん剤が中心となります。かつては予後不良とされていましたが、抗Trop‒2抗体薬物複合体であるサシツズマブ ゴビテカン(SG)は非常に注目される薬剤として日本国内でも承認されました。また、条件付きで使える新薬の登場により状況は改善しています。そのため、治療の選択には条件を満たすかどうかの検査、①免疫療法(アテゾリズマブ、ペムブロリズマブ)が使用可能か、②T‒DXd(HER2低発現に適応)が使用可能か、③PARP阻害剤(オラパリブ)が使用可能か、これらの検査が重要となります。

執筆者

副部長(准教授) 野村 長久 Tsunehisa Nomura
専門分野 乳腺、甲状腺、副甲状腺

認定医・専門医・指導医 日本乳癌学会乳腺専門医・指導医、日本外科学会専門医、日本マンモグラフィ精度管理委員会読影認定医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医・指導責任者

出身大学
川崎医科大学 H11.3 卒業

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