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がんセンター

がん治療

“がん”の治療内容などについて、分かりやすくQ&Aで解説します。

前立腺がん

Q1前立腺がんの自覚症状にはどのようなものがあるのですか?

A1
初期の前立腺がんでは特有な症状はありませんが、前立腺がんが進行すると尿道を圧迫するようになり排尿困難、頻尿、残尿感などの排尿症状をきたします。その排尿症状は良性の病気である前立腺肥大症と同じですので、症状のみから前立腺がんと診断することは困難です。
さらに、がんが進行すると血尿が出現したり、尿が出なくなったり(尿閉)することがあり、あるいは、腎不全(尿毒症)の状態で発見される方もいます。また、前立腺がんは骨盤や脊椎の骨に転移しやすいため、腰痛や骨折、脊髄神経の圧迫による手足のしびれや麻痺などの症状を起こすこともあります。

Q2前立腺がんの危険因子について、または予防法について教えてください。

A2
前立腺がんの決定的な危険因子はいまだよく分かっていませんが、現在最も確実な危険因子として家族歴が挙げられています。もし父親や兄弟に前立腺がんの方が1人いれば、前立腺がんの発症の危険性が一般と比較して2倍、2人以上なら5から11倍とされています。また、遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)の家系は一般集団と比べ前立腺がんの罹患率が高いと欧米で報告されています。父親、兄弟に前立腺がんの既往や、母親、姉妹に乳がんや卵巣がんの既往がある場合は積極的に検診を受けることをお勧めします。
かつて前立腺がんは欧米に多く、私たちの住む東アジアは少ない地域とされていましたが、近年著しく増加しています。増加の原因として高齢者の増加と食事や生活様式の欧米化が挙げられます。とくに食事は最も重要な環境因子と考えられています。一般に動物性脂肪が多く野菜摂取量が少ない欧米型の食事により前立腺がんの発症のリスクはより高くなるとされています。食品に関しては豆類、穀物、野菜の摂取はがんの予防にプラスにはたらき、乳製品、砂糖、油脂はマイナスにはたらくとされています。

Q3血液中のPSAの数値のみで前立腺がんの診断は可能でしょうか?

A3
PSA(前立腺特異抗原)はその名のごとく、正常の前立腺上皮から作られているタンパク質で、ほとんどが精液中に分泌され、血液の中にはほとんど出てこない物質です。そして前立腺上皮から発生する前立腺がん細胞もPSAを分泌します。
 つまり血液中のPSAの数値が高いということは前立腺がん以外に前立腺炎や尿道のカテーテル挿入などで前立線組織の破壊が起きている場合、前立腺肥大症で前立線体積が大きいため相対的に血液中に「漏れる」量が増えるなどでも起こります。一般には前立腺がんの検出率はPSA410ng/mlの値なら約2530%10ng/ml以上なら約5080%とされ、PSAの値のみでは前立腺がんのリスクのある人の絞り込みしかできません。

Q4前立腺がん診断の実際について教えてください。

A4
前立腺がんは比較的ゆっくりとした発育をするものが多く、また、高齢者に多く発生します。よって、すべての前立腺がんが生命に影響をもたらすわけではありません。一般に細胞の悪性度が低く(グリソンスコア6以下)、かつ0.5cc未満の前立腺がんは治療すべきではないとされています。つまり、すべての前立腺がんが治療の対象になるのではなく、治療すべき前立腺がん(臨床的に意義のある前立腺がん)は細胞の悪性度が中等度以上(グリソンスコア7以上)または0.5cc以上大きさのがんとなります。

 その臨床的に意義のある前立腺がんの診断に有用な検査がMRI検査です。MRIは磁場の力で画像を作成するのでCT検査と違い放射線被曝がない安全な検査です。

 PSAの値が高い人にMRI検査をし、臨床的に意義のあるがんの可能性が高い人に対して、その部を含めた針を用いた組織検査(前立線針生検)をすることで治療の必要な前立腺がんを見つけることが可能です。

 前立線針生検は超音波装置を用いて前立線をモニターしながら針を穿刺して組織を採取しますが、超音波装置では一般にMRIで指摘された病変を写すことができず、正確な組織採取が問題となってきました。当院では2018年からMRI画像を超音波の画像に融合させて、MRIで指摘した病変を正確に標的生検するMRI-超音波融合画像ガイド下前立腺生検装置を県下で最初に導入し、良好な成績をあげています。

Q5前立腺がんの治療には、どんな治療がありますか?

A5
現在、前立腺がんに対して一般に行われている治療法は、
  1. 手術療法
  2. 放射線療法
  3. 監視療法
  4. 局所療法
  5. ホルモン療法
  6. 化学療法(初診時に転移巣がたくさんある進行癌、あるいはホルモン療法が効かなくなった転移を有する前立腺がん)
などがあります。
前立腺がんは比較的ゆっくりとした発育をするものが多く、また有効な治療法が多くあります。転移がなく前立腺内に限局している早期がん(病期A、B)の治療成績(5年および10年がん特異生存率)はほぼ100%です。よって、がんの病期、細胞の悪性度(グリソンスコア)、診断時のPSA値、年齢、合併症の有無のみでなく、患者さんのライフスタイル、人生観なども考慮に入れて治療方針をたてる必要があります。

Q6手術療法について教えてください。

A6
手術療法は転移がなく前立腺内に限局している早期がん(病期A、B)で、期待平均余命が10年以上の70歳台後半までの、全身状態が良好な方への有効な治療法です。前立腺と精のうを一塊に摘出し、膀胱と尿道をつなぎ直す手術です。骨盤内リンパ節も併せて切除でき、がんを完全にとり除くことが可能ですので、治療効果は大きく、摘出した組織を病理検査で詳細に調べることができ、真の前立腺がんの状態が把握できるなど長所があります。
現在は手術用ロボットを用いたロボット支援手術が普及し、当院でも2017年から行っています。良好な術野で繊細な操作が可能であり、出血も少量で輸血はほぼ不要です。傷も小さく手術翌日から歩行が可能で、入院期間の短縮、早期の社会復帰も可能です

術後に一過性の尿失禁が生じますが、多くの方は3−6か月でほとんど消失します。勃起不全が高頻度に生じますが神経温存が可能な方なら、30-50%の方で温存が可能です。

ロボット支援手術の特徴である良好な術野と繊細な操作を用いることで、再発の可能性が低い方には徹底した神経温存手術による機能温存手術が、再発の可能性が高い方には広範なリンパ節郭清を併用した拡大手術と患者ごとに応じたきめ細やかな手術が可能となりました。

Q7放射線療法について教えてください。

A7
放射線療法は大きく分けて外照射法と組織内照射法に分けられます。
外照射法
外照射法は、体の外から前立腺に放射線を照射して、がん細胞を死滅させる治療法です。適応は転移のない限局がんとなります。前立腺周囲の照射を軽減させるために、強度変調放射線治療を採用し、放射線を前立腺に限局して照射することが可能になっています。
組織内照射法
組織内照射法とは、体の中から放射線を当てて、がん細胞を死滅させる治療法です。体内に放射線を発する小さな線源を埋め込むことから、小線源療法とも呼ばれています。小線源療法には、放射線を発する小線源(イリジウム)を一時的に前立腺内に挿入して治療する高線量率組織内照射と、小線源(ヨード)を永久に埋め込む低線量率組織内照射の2つの方法があります。当院ではイリジウムを用いた高線量率組織内照射に1997年から取り組んでおり、これまでに1000例以上の治療実績があります。しかし、種々の都合で、2021年末をもって終了となりました。現在、再開の目処はありません。

外照射、組織内照射いずれにしても前立腺の外には治療効果がありません。よって前立腺周囲への浸潤を疑う方や再発のリスクが高い方には約2年のホルモン療法を併用します。

Q8放射線療法の副作用とその対策はどうですか?

A8
射線を照射する治療でも特有の副作用が起こります。
放射線治療直後
治療後は排尿困難、頻尿、排尿時痛などがありますが、時間の経過とともに無治療でも改善してきます。排便についても治療に伴う下痢、肛門痛、痔の症状の悪化などがありますが、これらも時間とともに改善します。
晩期合併症
  1. 勃起機能:勃起に関係する神経や血管にも放射線が照射されるため、勃起機能も低下しますが、神経温存を行わなかった手術療法のような急激な低下はありません。軽度の勃起機能低下に対しては勃起障害改善薬を内服することで維持できます。
  2. 尿道狭窄:高線量率組織内照射の治療後、数か月から数年の間に尿道が狭く(尿道狭窄)なり、尿が出にくくなることがあります。高度の場合は内視鏡で狭い部位を切開して拡張する必要があります。
  3.  放射線性膀胱炎、放射線性直腸炎:治療後かなり経過してから血尿や血便が出現することがあります。程度にもよりますが難治性になることもあります。最近は放射線治療前に前立腺と直腸の間に超音波下にゲルを注入し、前立腺と直腸間の隙間を作ることで直腸への被曝を減らすための処置を行っております。
  4. 2次発がん:前立線以外に膀胱、直腸が被曝しますので膀胱がんや直腸がん発生のリスクがあります。膀胱がんは手術療法の方に比較し多い傾向にありますが、早期のものが多く、内視鏡手術で対応可能なものがほとんどです。現在は直腸への被曝に対しては前項にあるゲルの注入で直腸線量の減少を図り予防しています。

Q9監視療法について教えてください

A9
監視療法は、臨床的に意義のない前立腺がん、つまり細胞の悪性度が低く(グリソンスコア6以下)かつ、小さな病変のがんに対して、あえて治療を行わず、経過を観察し、病状の進行までは治療を行わない治療法です。手術療法も放射線療法も行いませんので、体に傷もつきませんし、尿もれも勃起障害も起こりません。被曝もありませんので安全です。

しかし、ゆっくりですが前立腺がんは進行しますので慎重な経過観察は必須となります。どの治療にも存在する副作用を避けることができ、本来の生活を続けることができる反面、患者さんの不安感への対応が必要で、医師との密接な関係が重要です。

監視療法の絶対的な適応はありませんが、目安は診断時PSA値が10ng/ml以下かつグリソンスコア6以下、MRIでも検出できない小さながんとされています。

Q10局所療法とはどのような治療ですか

A10
MRIで指摘された前立線がんの部位のみに治療することで、先に述べた手術療法や前立腺全体に照射する放射線療法の欠点を避けて治療する新しい治療の概念です。

麻酔下にMRI-超音波融合画像ガイド下前立腺生検装置を利用して、がんの部位に治療用の針を穿刺して治療します。治療法は小線源(イリジウムまたはヨード)、高密度焦点式超音波、凍結療法、ラジオ波など色々ありますが、保険適応になっているのは小線源のみです。

当院では2020年4月から高線量率組織内照射療法を用いた臨床試験を開始しました。新しい治療で長期成績は不明ですが、手術療法による尿漏れや勃起障害を避けることができ、前立線全体に照射する従来の放射線療法と異なり、膀胱、直腸への被曝を限りなく防ぐことができる安全な治療と期待されます。

適応はMRI検査で指摘された部位のみから見つかった1カ所の前立腺がんで細胞の悪性度は中等度以下(グリソンスコア7以下)の方になります

しかし、この治療も高線量率組織内照射ができなくなったことで2021年末をもって中断となりました。現在、再開の目処はありません。

Q11ホルモン療法について教えてください。

A11
前立腺は男性ホルモンが存在すると増殖します。前立腺がんの細胞も同じ性質を持っているため、男性ホルモンを取り除くことができれば、前立腺がん細胞は増殖をやめ、さらには細胞死におちいります。男性ホルモンの90%を占めるテストステロンは精巣で産生されます。以前は手術で精巣を摘出すること(外科的去勢)が多く行われていましたが、現在は精巣を摘出する代わりに精巣からのテストステロンの産生を止めるLH-RHアゴニストもしくLH-RHアンタゴニストという注射を用いる治療(薬物的去勢)が主流です。薬剤によりますが、1か月に1回、3か月に1回または6か月に1回の皮下注射になります。またその治療に加えて、前立腺がん細胞にある男性ホルモン受容体をブロックすることにより、男性ホルモンによるがん細胞増殖指令を止める、抗アンドロゲン薬という内服薬を併用することもあります。

抗がん薬とは異なり、脱毛、吐き気、腎障害、血液毒性はなく、高齢者にも比較的使いやすい治療ですが、性欲の低下、顔面のほてり、のぼせ、発汗や筋力低下、骨粗鬆症、肥満、うつ状態、認知障害などの副作用があります。

内分泌療法は全身に作用しますので、転移している部位にも効果があり、あらゆる病期のがんに有効です。しかし長期に使用すると効果がなくなる再燃という状態になることがあります。特に悪性度の高いがん(グリソンスコア8以上)や進行がんにその傾向が顕著です。

Q12化学療法について教えてください。

A12
ホルモン療法が効かなくなった状態を去勢抵抗性前立腺がんと言います。ドセタキセルという抗がん剤を3−4週間に1回点滴します。副作用は脱毛、手足の指先の痺れ、爪の変形、むくみ、白血球減少による発熱などがあります。注意して行えば通院での治療が可能です。ドセタキセルが効かなくなった方にはカバジタキセルという抗がん剤の使用が可能です。 

 

ドセタキセルは2021年秋から去勢抵抗性前立腺癌だけでなく、ホルモン感受性のある状態でも転移巣の多い患者にも適応となりました。


去勢抵抗性前立腺がんに対しては抗がん剤以外にも新しいホルモン製剤や特殊な遺伝子異常を認めた方には分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬も適応となりました。進行した方にも多種類の治療法が行われるようになってきました。