認知症とは
1.認知症とは
  • もともと正常に発達していた知能(記憶、言語、動作、状況理解や判断)が、何らかの脳の障害によって、少しずつ難しくなることが増えていく状態をいいます。
  • 具体的には、もの忘れを含む様々な知能の低下により、これまでできていた仕事や通常の社会生活に支障をきたす状態といえます。
  • 認知症は誰でもかかる可能性のある病気です。
  • 単なるもの忘れと認知症とは違います。
2.認知症の症状について
  • 認知症の症状は、脳の障害される場所や程度によって、もの忘れ(記憶障害)だけでなく、以下の様々な症状が出現します。
認知症の症状について
3.認知症をおこす病気について
  • 認知症の原因となる病気は、アルツハイマー病や脳梗塞だけでなく、その他にもビタミン不足や感染症、慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症など外科手術で治せるものも含まれます。
神経変性疾患 アルツハイマー病前頭側頭葉変性症レビー小体型認知症
大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺 など
脳血管障害 脳血管性認知症、ビンスワンガー病、脳アミロイドアンギオパチー、
CADASIL など
感染症 脳炎、神経梅毒、エイズ脳症、プリオン病 など
腫瘍 脳腫瘍
外傷 慢性硬膜下血腫、外傷性脳出血など
髄液循環障害 正常圧水頭症
内分泌障害 甲状腺機能低下症
中毒、栄養障害 アルコール依存症、ビタミン欠乏 など
グラフ アルツハイマー型認知症とは 軽度認知障害とは 脳血管性認知症とは 前頭側頭葉変性症とは レビー小体型認知症とは
アルツハイマー型認知症(AD)

「アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s dementia)」とは、「アルツハイマー病」による認知症のことで、認知症をきたす神経変性疾患の中でも一番多い疾患です。
特に64歳以下で発症した場合、「若年性アルツハイマー病」と呼ばれることがあります。

原因

まだ分かっていませんが、アミロイドβとタウという2つのたんぱく質が脳内に異常に溜まることで、脳の神経細胞が減り、知能の低下が起こるのではないかといわれています。

診断

病状や進行具合から他の病気の可能性を除き、加えて画像検査(MRI、脳血流SPECT)や神経心理検査の結果から総合的に行われます。

症状

突然ではなく、徐々に始まり、ゆっくりと進行することが特徴です。
もの忘れから始まることが多く、新しいことを覚える機能や日時や場所を把握する機能が影響を受けやすいため、進行すると日常生活に支障をきたすことがあります。

治療と対応

現在のところ、病気そのものを治す薬はまだありませんが、進行をある程度遅らせる薬が4種類あります。
古い記憶や、身体をつかって覚えたものは比較的保たれやすいので、今できていることを無理せずに続けていく環境調整が大事になってきます。その時の心身の状態にあわせて、介護保険をはじめとするサービスを活用し、本人も周囲の方も安心して過ごせる時間や場所を見つけていきます。

軽度認知障害(MCI)
 「軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment)」とは、もの忘れが主な症状ですが、日常生活への影響はほとんど見られず、「認知症」とは診断できない状態のことをいいます。
定義
正常と認知症の中間ともいえる状態で
  • 1.年齢や教育の影響のみでは説明できない記憶障害がある。
  • 2.本人または家族による「もの忘れ」の訴えがある。
  • 3.全般的な認知機能(言葉、動作、注意力、判断力など)は正常範囲内。
  • 4.身の回りのことは自分で行える。
  • 5.「認知症」ではない。
と定義されています。
診断

病状や進行具合から他の病気の可能性を除き、加えて画像検査(MRI、脳血流SPECT)や神経心理検査の結果から総合的に行われます。
「軽度認知障害」と診断された方の全員が「認知症」になるわけではありませんが、診断されて4年のうちに約半数の人が「認知症」へ進行するという調査結果があります。

治療と対応

検査の結果、アルツハイマー病など認知症になる前の状態である可能性が高い場合にはこの段階から早めに薬による治療を開始することで、認知症への進行を遅らせる効果が期待されています。
「もの忘れ」による体験は、本人や周囲の方にとっても「もしかして?」と心配になるもの。気になった時に、かかりつけ医の先生へ相談したり専門医を受診することも安心に繋がるかもしれません。半年や1年など定期的に検査を行うことで認知症への進行を早期に発見することが重要です。
また、認知症予防にはバランスのよい食事や運動(コグニサイズなど)やワクワクするような趣味活動、仲間との交流がよいとされています。

 
脳血管性認知症(VaD)

脳の血管が詰まったり(脳梗塞など)破れたり(脳出血など)することにより、脳の働きが部分的に悪くなることがあります。このような認知症を「脳血管性認知症(Vascular dementia)」といいます。

原因

「脳血管性認知症」は、脳梗塞の多発によるものが大部分を占めます。脳の中に大きな梗塞ができる、小さな梗塞でもたくさんできる、脳の血管が細くなって脳全体の血流が低下する、などが原因となって起こります。

診断

病状や進行具合から他の病気の可能性を除き、加えて画像検査(MRI、脳血流SPECT)や神経心理検査の結果から総合的に行われます。

症状

「脳血管性認知症」は、脳卒中後に突然症状が現れたり、発作ごとに階段を下りるように進行することがしばしばあります。
脳は部分によって働きが異なるため、ダメージを受けた部位によって歩きにくさや話にくさ、気分のむらやしびれなど症状に個人差があるのも特徴です。

治療と対応

高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙、心疾患、動脈硬化など脳血管障害の危険因子の予防や治療をすることが大事です。
合わせて、日常生活にリハビリを取り入れて残っている機能を使っていくことも有用です。

前頭側頭葉変性症(FTLD)
 脳の中でも、前頭葉や側頭葉前方が縮むことが影響して起こる認知症を「前頭側頭葉変性症(Front temporal Lobar Degeneration )」といいます。 ピック病や意味性認知症、進行性非流暢性失語なども含まれる広義の概念です。
原因

原因はまだわかっていませんが、前頭葉・側頭葉の神経細胞が急激に減ってしまい、脳が萎縮して起こります。

診断

病状や進行具合から他の病気の可能性を除き、加えて画像検査(MRI、脳血流SPECT)や神経心理検査の結果から総合的に行われます。

症状

「アルツハイマー型認知症」と異なり、最初のころには「もの忘れ」が目立たないことが特徴です。前頭葉の機能である「意欲や社会性」、側頭葉の機能である「言葉の理解」などが影響をうけやすい面があります。
毎日同じ時間に同じ行動をとることを頑なにまもろうとしたり、予定の変更に戸惑い変更することが難しく、慌ててしまい衝動的に行動してしまうこともあります。

治療と対応
現在のところ、症状を改善したり進行を防ぐ有効な治療法はみつかっていません。一部の精神科の薬が、気持ちを落ち着ける効果があったという報告があります。
予定をわかりやすくシンプルにしたり、リハビリ専門職のアドバイスをうけながら環境調整をすると困難の解決につながることがあります。
レビー小体型認知症(DLB)
 脳血管障害の予防が進む中で、「アルツハイマー型認知症」の次に多いのではないかと注目されているのが「レビー小体型認知症(Dementia of Lewy bodies)」です。
原因
おもに大脳皮質の多数の神経細胞の中に、レビー小体という物質がたまり、脳の働きを妨げることが原因とされています。
診断
病状や進行具合から他の病気の可能性を除き、加えて画像検査(MRI、脳血流SPECT、心筋シンチグラフィー、DATscan)や神経心理検査の結果から総合的に行われます。
症状
もの忘れや判断力の低下など、アルツハイマー型認知症に似たような症状もみられますが、実際にないものが見える「幻視」や、パーキンソン病のような手足の振るえや動かしにくさ、1日の中でも調子のよい時間帯と悪くなる時間帯があることも特徴といえます。
中には、大きい寝言や抑うつ症状の原因が「レビー小体型認知症」により起こっていることもあります。
治療と対応
現在のところ、病気そのものを治す薬はまだありませんが、病気の進行を緩やかにする薬があります。また、幻視や体の動かしにくさなどの症状の緩和を目的に薬を調整することがあります。
「幻視」は、本人だけでなく、周りの方も不安になりやすい症状の1つです。頭ごなしに否定せず、見間違えそうなものを整理してみたりするのも有効です。また、身体の動かしにくさから転倒によるケガにも気をつける必要があるでしょう。