74事務部長 守田 光宏―“おいしい食事”提供へのこだわりは?―守田:附属病院の中庭や周辺の植栽の美しさ、また院内の行き届いた清掃は定評がありますが、これは外部委託をせず、理念を共有する学園の職員が行っているためです。栄養部も同じで、開院以来、献立づくりから材料の仕入れ、調理、配膳まですべて直営で、365日、入院患者に食事を提供しています。「すべては患者のために」と、例えば朝食の場合なら、早朝の5時から15分ごとの細かい出勤シフトを組んで、すべての入院患者が食べるにふさわしい時間帯に温かいものが食べられるように配慮しています。特定機能病院で入院期間は短くなっていますが、それでも昔と変わらず季節の行事食も提供しています。病院で働く栄養士を育てたいと設置した医療短期大学臨床栄養科および現在の医療福祉大学臨床栄養学科の卒業生も多く勤務しています。細やかな気配りがあり、理念を大切にしている附属病院は素晴らしい病院だと思っています。「かわらぬ思い、このさきも」のスローガンと一緒で、もし未来に同じ質問で私が語ることがあっても、この気持ちは変わらないと思います。―附属病院は「プライマリ・ケア医養成」発祥の地?―和田:幅広い領域の初期診療を行うため、当院には「総合診療科」を設けています。紹介状のない患者や、例えば腹痛の症状があるが何科を受診すればいいのかわからない、という患者のための病院の入り口のような科で、1981(昭和56)年に「総合診療部」として開設しました。そこでは、ひじ掛け付きの椅子に患者が座ってじっくりと医師と話すことができたと聞いています。その後1983(昭和58)年には、再開発されてきれいになった倉敷駅前の三越百貨店に、総合診療の理念を受け継ぐ「倉敷駅前診療所」を開設しました。16年という短い期間でしたが、診療所パンフレットには、「新しい考え方の医療を行い、新しい考え方の医師を教育する」と気概に満ちた北昭一所長(当時)の言葉が綴られていました。我々は今、例えば内科や外科からの出向、といった形ではなく最初から「総合診療医」になることを目指す医師、つまり“生まれながらの総合診療医”を育てようとしています。総合診療科の拡張、そしてさらにその前段階となる、紹介状も予約もない患者が来られたときに対応する「ファーストコンタクトセンター構想」のビジョンも描いています。―より質の高い医療の提供のためには?―永井:より質の高い医療を提供するため、病院として必要なものは最先端の技術・機器でしょう。最近はAIや医療DXもいわれています。それらを追うとともに、さらに効率よく利用するために、医療人として基本的なことも忘れずにいたいものです。私が常々、皆に伝えているのは、「整理・整頓・清掃・清潔・習慣付け」の「5S運動」です。整理整頓、掃除を行うことで頭の混乱が防げ、ミスが減り医療安全につながります。そして「人間愛」。身なりを清潔にし、「和顔愛語(わげんあいご)」と「至誠惻怛(しせいそくだつ)」をいつも心に留めて患者に接し人を育ててゆけば、附属病院の未来が見えてきます。“かわらぬ思いをこの先”へ伝えながら、さらに皆で力を合わせて、“かわる先”に向かっていきたいものです。―卒業生たちの附属病院での活躍について教えてください―守田:当院には川崎学園の各教育施設を卒業した人たちがたくさん働いています。そして長く勤務している職員も大勢います。それはなぜかと言うと、開院当初からの病院理念が根幹にあり、職員一人ひとりの指針として継承されているため、働く喜び、医療従事者としての自負や誇りが自然と生まれてくる病院だからです。外部から入職してこられる人にも、川崎のためにと一生懸命に頑張って下さる方々がいます。今、働き方改革のために、附属病院の理念である「24時間いつでも診療を行う」の概念が問われる時代になっています。しかし一律に実行してしまうと、本当に求めているものが得られなくなるからとモチベーションが下がってしまうと考える若い人たちもいるのです。時間の作り方や、モチベーションを上げるため、空いた時間をどうしたら患者・地域のために貢献できるかを共に考え、伝えてあげることが必要だと思います。
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